不動産の売却を検討している方の中には、「抵当権付きの物件でも売却できるのだろうか?」といった疑問や不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
結論からいうと、抵当権が付いていても不動産を売却することは可能です。ただし、通常の不動産売却とは異なる点があるため、注意が必要です。
そこで本記事では、抵当権付き物件の売却について、以下の内容を解説します。
- 抵当権付き物件とは?
- 抵当権付き物件は売却できる?
- 抵当権付き物件を売却する際の注意点
- 抵当権付き物件を相続した場合はどうしたらいい?
本記事を読むことで、抵当権付き物件の売却に関する疑問や不安を解消できるでしょう。
目次
抵当権付き物件とは?
「抵当権」とは、住宅ローンなどの担保として、金融機関が不動産に設定する権利のことです。
住宅ローンを利用して不動産を購入する場合、返済が滞ると金融機関は担保である不動産を競売にかけ、売却代金をローンの返済に充てることができます。
つまり、抵当権付き物件とは、住宅ローンなどの担保として抵当権が設定されている不動産のことを指します。
根抵当権との違い
抵当権と似た言葉に「根抵当権」があります。根抵当権とは、継続的な取引で発生する不特定の債権を担保するための権利です。
例えば、企業が金融機関から継続的に融資を受ける場合に、根抵当権が設定されることがあります。
抵当権は特定の債権を担保するのに対し、根抵当権は継続的な取引で発生する不特定の債権を担保するという点が主な違いです。
抵当権付き物件は売却できる?
抵当権付き物件であっても、売却することは可能です。ただし、売却方法によっては、通常の不動産売却とは異なる手続きが必要になります。
抵当権付き物件の主な売却方法としては、以下の3つがあります。
- 自己資金でローンを完済して売却する
- 売却した資金でローンを完済して売却する
- 任意売却する
それぞれの売却方法について、詳しく見ていきましょう。
自己資金でローンを完済して売却する
自己資金でローンを完済できる場合は、抵当権を抹消してから売却することができます。
この方法は、最もスムーズに売却を進めることができる方法といえるでしょう。
ただし、自己資金でローンを完済する必要があるため、まとまった資金が必要です。
具体的な手順
・ローン残高の確認: 金融機関に連絡し、住宅ローンの残高を確認します。
・完済資金の準備: 確認した残高を自己資金で支払えるように準備します。
・金融機関への連絡と完済手続き: 金融機関に連絡し、完済の手続きを行います。
・抵当権抹消書類の受け取り: ローンを完済すると、金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取ります。
・抵当権抹消登記: 法務局で抵当権抹消登記を行います。
・不動産の売却活動: 抵当権が抹消された状態で、不動産の売却活動を開始します。
この方法のメリットは、抵当権を気にせずに売却活動を進められる点や、買主にとって安心感があるという点でしょう。しかし、まとまった自己資金が必要となるので注意が必要です。
売却した資金でローンを完済して売却する
売却によって得た資金をローンの返済に充て、残りの資金を売却益とする方法です。
この方法は、自己資金でローンを完済できない場合でも、不動産を売却できるというメリットがあります。
ただし、売却金額がローンの残債を下回る場合は、自己資金で不足分を補填する必要があります。
具体的な手順
・不動産会社への相談と査定: 不動産会社に相談し、売却予定の不動産の査定を依頼します。
・ローン残高の確認: 金融機関に連絡し、住宅ローンの残高を確認します。
・売却活動と売買契約: 不動産会社と協力して売却活動を行い、買主との間で売買契約を締結します。
・決済とローン完済: 売買代金を受け取り、その資金で住宅ローンを完済します。
・抵当権抹消登記: 金融機関から受け取った書類をもとに、法務局で抵当権抹消登記を行います。
注意点として、売却金額がローン残債を上回るか事前に確認する必要があります。また、売却活動が長期化すると、ローンの利息が増える可能性があるので長期化する返済に自信のない方はおすすめとは言えません。それに加え、売買契約時に、ローン残債を売買代金で、支払う旨の特約を結ぶ必要があるので時間に余裕がない方は不向きかもしれません。
抵当権付き物件の売却は、通常の不動産売却よりも複雑になる場合があります。そのため、不動産会社や司法書士などの専門家に相談しながら、慎重に進めることをおすすめします。
住み替え先を決めてから売却する(買い先行)
住み替えを検討している場合は、住み替え先を決めてから売却する方法(買い先行)と、売却してから新しい物件を探す方法(売り先行)があります。
買い先行とは、新しい物件の購入契約を先に結び、その後に現在住んでいる物件の売却活動を行う方法です。
買い先行のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
・じっくりと住み替え先を探せる | ・売却活動が長引くと、二重ローンになる可能性がある |
・引っ越しがスムーズに進みやすい | ・売却金額が予想を下回る可能性がある |
売却してから新しい物件を探す(売り先行)
売り先行とは、現在住んでいる物件の売却活動を先に行い、売却後に新しい物件を探す方法です。
売り先行のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
・売却金額が確定してから住み替え先を探せる | ・住み替え先が見つかるまで仮住まいが必要になる場合がある |
・二重ローンの心配がない | ・希望する条件の物件が見つからない可能性がある |
上記のメリット・デメリットを見ながら、どのように売却するのがいいのか専門家と相談しながら検討することをおすすめします。
任意売却する
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった場合に、金融機関(債権者)の合意を得て不動産を売却する方法です。
住宅ローンの滞納が続くと、最終的には金融機関によって不動産が競売にかけられます。しかし、競売では市場価格よりも大幅に低い価格で落札されることが多く、残債が大きく残ってしまう可能性があります。
任意売却は、競売よりも市場価格に近い価格で売却できる可能性が高いため、残債を減らし、その後の生活再建につなげやすいというメリットがあります。
ただし、任意売却は金融機関との交渉が必要になるため、専門的な知識や経験が必要です。
メリット | デメリット |
・市場価格に近い価格で売却できる可能性が高い | ・金融機関の合意が必要 |
・引っ越し時期の調整が可能 | ・売却期間が限られる |
・周囲に知られずに売却できる | ・専門的な知識が必要 |
・精神的な負担が軽減される |
任意売却は、住宅ローンの返済に困ったときの選択肢の一つです。専門家のサポートを受けながら、慎重に検討しましょう。
抵当権付き物件を売却する際の注意点
抵当権付き物件を売却する際には、通常の不動産売却とは異なる注意点があります。主な注意点は以下の2点です。
- 抵当権抹消には登記手続きが必要になる
- 諸費用がかかる
それぞれの注意点について、詳しく見ていきましょう。
抵当権抹消には登記手続きが必要になる
抵当権を抹消するには、法務局で抵当権抹消登記を行う必要があります。
抵当権抹消登記は、自分で行うことも可能ですが、司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士に依頼するメリットは、複雑な手続きを任せられたり、書類作成のミスを防げ、スムーズに手続きを進められる点です。
しかし、司法書士に依頼する場合は、司法書士への報酬と登録免許税などの費用がかかるので事前に調べておきましょう。
抵当権抹消登記にかかる費用
・登録免許税: 不動産1個につき1,000円
・司法書士報酬: 1万円~2万円程度
諸費用がかかる
抵当権付き物件の売却には、通常の不動産売却と同様に、仲介手数料や税金などの諸費用がかかります。
また、抵当権抹消登記にかかる費用も考慮しておく必要があります。
これらの費用は、売却金額から差し引かれるため、事前に確認しておくことが大切です。
主な諸費用
仲介手数料 | ・不動産会社に支払う手数料。売買価格の3%+6万円が上限 |
印紙税 | ・売買契約書に貼付する印紙代。売買価格によって金額が異なる |
登記免許税 | ・所有権移転登記や抵当権抹消登記にかかる税金 |
司法書士報酬 | ・登記手続きを司法書士に依頼する場合に発生 |
その他費用 | ・測量費用、建物解体費用、引っ越し費用など |
諸費用を抑えるために、不要なオプションサービスを断ったり、複数の不動産会社に見積もりを依頼し、仲介手数料を比較するのを検討するのもおすすめです。抵当権抹消登記など、自分でできる手続きは自分で行ったり、臨機応変に選んで行くことが大切です。
抵当権付き物件の売却は、通常の不動産売却よりも費用がかかる場合があります。そのため、事前にしっかりと資金計画を立てておくことが大切です。
抵当権付き物件を相続した場合はどうしたらいい?
抵当権付き物件を相続した場合、相続人は以下の3つの選択肢から選ぶことができます。
- 相続する
- 抵当権を抹消する
- 相続放棄する
それぞれの選択肢について、詳しく見ていきましょう。
相続税が課税される
抵当権付き物件でも通常の不動産の場合と同様に、相続税が課税されます。相続税は、相続財産の総額から基礎控除額を差し引いた金額に課税されます。
抵当権付き物件の場合、抵当権の残債を相続財産の総額から差し引くことができます。
相続税の申告・納税は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。
相続税の計算は複雑になる場合があるため、税理士に相談することをおすすめします。
抵当権を抹消する
相続した物件の住宅ローン残債を、相続人が引き継ぐ場合は、抵当権を抹消する必要があります。
抵当権の抹消手続きも、通常の不動産売却と同様です。
手続きの流れは、まずローン残高の確認を行います。その後に、残債を一括返済するための資金を準備します。準備が整うと、金融機関に連絡し、完済の手続きを行う必要が出てくるでしょう。ローンを完済すると、金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取り、最後に、法務局で抵当権抹消登記を行います。
注意点としては、相続人が複数いる場合は、相続人全員の同意が必要になる点です。抵当権抹消登記には、登録免許税や司法書士報酬などの費用がかかりますので、不明点が出てきた場合は専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄を選択する
相続財産が負債超過の場合や、相続に関わりたくない場合は、相続放棄を選択することもできます。
相続放棄は、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
注意点としては、相続放棄をすると、すべての相続財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を相続できなくなります。原則として撤回できません。このような場合も起こるため、相続放棄を検討する場合は弁護士などの専門家に相談する事をおすすめします。
まとめ
抵当権付き物件であっても、売却することは可能です。ただし、通常の不動産売却とは異なる点があるため、注意が必要です。
抵当権付き物件の売却を検討している場合は、本記事で解説した内容を参考に、慎重に検討するようにしましょう。
また、専門的な知識が必要になる場合は、不動産会社や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
抵当権付き物件の売却を成功させるために早めの行動したり、情報収集を行う必要も出てくるでしょう。
その際は、相続時の注意点を確認しながら信頼できる専門家の選択が重要になってきます。
抵当権付き物件の売却は、複雑で専門的な知識が必要となる場合があります。そのため、本記事を参考に、慎重に検討し、必要に応じて専門家のサポートを受けながら、スムーズな売却を目指しましょう。