不動産を売却する際には、法人として取引する場合と個人として取引する場合で、税金の計算方法や税率が大きく異なります。不動産譲渡税は取引の結果に大きな影響を与えるため、法人取引と個人取引のそれぞれのメリットとデメリットを理解することが重要です。
本記事では、法人と個人の違いを比較しつつ、法人が不動産を売却する際に関係する税金や節税方法について詳しく解説します。
目次
不動産売却するときの法人・個人の税金の違い
不動産を売却する際、法人と個人では税金の計算方法や課税の仕組みが大きく異なります。それぞれに特有のルールやメリット・デメリットがあるため、正確な情報を把握しておく必要があります。
譲渡所得の計算方法の違い
法人の場合、不動産売却益は法人全体の所得として合算され、合算された全体の所得に法人税が課されます。不動産売却だけでなく、他の事業収益とも損益通算されるため、総合的な利益計算が必要です。
例えば、商業用物件を保有する法人が物件を売却して大きな売却益を得たとしても、他の部門で赤字があれば所得を相殺でき、結果的に法人税の課税額を抑制できます。
一方、個人の場合、不動産売却益は譲渡所得として扱われ、分離課税が適用されます。給与所得や事業所得などの他の所得とは別で計算されるため、損益通算はできません。
なお、個人の場合、特定の控除や税率の違いを活用して税負担を軽減できます。例えば、自己使用の居住用不動産(マイホーム)を売却する際には「3,000万円特別控除」を適用し、売却益3,000万円までの課税をゼロにできます。
課税率の違い
法人税の税率は、一般的に23.2%です。不動産の売却益は法人全体の所得に合算されるので、売却益だけに課税されるわけではありませんが、税率の基準は23.2%となる形です。
個人の場合、不動産譲渡税の税率は所有期間によって異なります。税率には短期譲渡所得と長期譲渡所得の2種類があります。短期譲渡所得は不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間5年以下のもので、所得税30%、住民税9%、特別復興所得税0.63%の合計39.63%がかかります。
長期譲渡所得は1月1日時点で所有期間5年超のもので、所得税15%、住民税5%、特別復興所得税0.315%の合計20.315%が課税されます。さらに、所有していた不動産がマイホームの場合は、所有期間10年超で14.21%になる軽減税率もあります。
減価償却の扱い
法人と個人では、減価償却の扱いが異なります。減価償却とは、所有する固定資産の価値減少にともなって、取得費用を複数年にわたって分割して経費計上する会計処理を指します
法人は「任意償却」を選択できます。これは、法人が減価償却費を計上する時期や金額を自由に決定できる制度です。法人はまったく償却しないことや、一部のみの償却も認められているのです。任意償却には損金算入できる上限額が定められており、その範囲内で自由に計上できます
一方、個人は「強制償却」に従わなければなりません。これは、減価償却対象となる資産を保有している場合、必ずその資産に対して法定耐用年数に基づいて減価償却費を計上しなければならない制度です。
法人の不動産売却でかかる税金は5種類
法人が不動産を売却する際には、主に5種類の税金が関係します。これらの税金には、それぞれ異なる課税ルールや計算方法があり、注意点も異なります。
法人税
法人税は法人の所得全体に課される基本的な税金で、不動産売却益も課税対象に含まれます。法人の種類や資本金、年間の所得金額によって税率が変動します。
法人税額は以下の計算式で求められます。
法人税額=課税所得×税率-控除
ここで、益金とは売上収入や売却収入などの収益を指し、損金は売上原価や販売費などの費用を指します。課税所得が算出された後、その金額に適用される税率を掛けて法人税額を計算します。
一般的な法人税率は以下の通りです。
資本金1億円以下の中小法人:年間所得800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%
上記以外の普通法人:23.2%
法人住民税
法人住民税は、法人が地方自治体に支払う税金です。「道府県民税」と「市町村民税」の2つで構成されています。
また、法人住民税は法人税割と均等割とがあります。法人税割は、法人税額に基づいて計算されます。具体的には、法人税額に定められた税率をかけます。現在の標準税率は、都道府県民税が1.0%、市町村民税が6.0%です。(東京都は都税で7.0%となります。)
均等割は、法人の資本金や従業者数に基づいて課せられる固定額です。均等割は赤字決算の場合でも課税されるため、注意が必要です。例えば、資本金が1,000万円以下で従業者数が50人以下の場合、均等割は合計7万円となります。
法人事業税
法人事業税は、法人が事業を行う際に利用する公共サービスの維持費を負担する目的で課される地方税です。法人が所在する都道府県に納められます。
法人事業税は、法人の事業活動に基づいて課税されるため、法人の所得が赤字の場合は納付の必要がありません。ただし、資本金が1億円を超える法人には外形標準課税が適用され、赤字でも納付が必要となる場合があります。
法人事業税の課税基準は3種類あります。所得割は、法人の所得に基づいて課税されます。付加価値割は、法人の付加価値(従業員への給与など)に基づいて課税されます。資本割は、法人の資本金に基づいて課税されます。
印紙税
印紙税は、不動産売買契約書に貼付する形で課される税金です。この税額は、契約書に記載された金額に応じて決まります。なお、印紙税については軽減措置が取られていて、2027年3月31日まで作成される契約書は所定の軽減措置があります。
例えば、契約金額が1億2,000万円の場合印紙税は本則では10万円ですが、軽減措置で6万円となります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 1千円 | 500円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
消費税
消費税は、不動産のうち建物部分の売却にのみ課されます。土地部分は非課税です。課税対象が建物部分に限定されているため、建物と土地を適切に分けた価格設定を行います。
消費税の計算式は以下となります。
法人が不動産を売却する際には、これらの税金を正確に計算し、課税額を最小限に抑えるための計画が重要です。
法人が不動産売却するときの節税対策3選
不動産を売却して売却益が出ると不動産譲渡税がかかるため、税負担を軽くするためにいくつかの節税方法があります。法人と個人とでは税の計算方法が異なるので、節税方法も異なります。
ここでは、法人が採用すべき節税方法について、3つ紹介します。
設備投資で収益を下げる
法人税の軽減を図るために、設備投資を活用する方法があります。売却益が発生した年度に新規に設備投資を行い、経費として計上する方法です。この方法により、企業は税負担を軽減しつつ、長期的な成長を目指すことができます。
ただし、新しい設備の導入には多額の資金が必要であり、結果として法人税の負担軽減はできますが、同時に収益も圧迫されます。設備投資によって生産能力が向上した場合でも、市場需要とのミスマッチも予想されます。過剰な生産能力は在庫の増加を招き、それにともなう在庫管理コストや廃棄ロスが発生する可能性もあります。
そのため、設備投資の範囲や規模については慎重に計画を立てる必要があります。
利益を減らして税率を下げる
法人税の軽減を図るために、利益を調整して課税負担を抑える方法です。
例えば、役員報酬を引き上げる、経営者の自宅を社宅とし会社経費に計上するなどして、法人の利益を減少させます。社員旅行や健康診断などの福利厚生費用を計上し、その分を損金として扱い利益を減少させる方法もあります。
中小企業向けの経営セーフティ共済に加入すると、その掛金を損金として計上できるため、法人税負担を軽減できます。この制度は取引先の倒産リスクから企業を守る目的もあり、一石二鳥といえます。
これらの利益調整策は「脱税」と見なされる可能性もあるため、実施する際には税理士などの専門家の助言が推奨されます。
新規物件を購入する
売却益を新たな不動産物件の購入に再投資し、課税を繰り延べる方法です。新規に物件を取得すると、減価償却費を計上できるため、所得を大幅に減らす効果があります。
「事業用資産の買い換え特例」を活用する方法もあります。これは、特定の条件を満たす場合に不動産譲渡税の課税を繰り延べるが可能になる制度です。課税の繰り延べによって、手元に多くの現金を残すことができ、新たな投資や事業展開にあてられます。また、より収益性の高い不動産への買換えが可能となり、長期的な利益を見込めます。
ただし、税金は免除されるわけではなく、将来的に売却した際には課税されるため、計画的な売却タイミングが重要です。新規不動産取得後に発生する維持費や運用コストの考慮も求められます。
法人が不動産売却で税金を計算するときの注意点
法人が不動産を売却する際には、税金を計算する上でいくつかのポイントに留意する必要があります。これを怠ると、予期せぬ税負担やトラブルが発生する可能性があります。以下では、代表的な注意点を解説します。
引き渡し日が計上時期を左右する
法人は、引き渡し日の考え方が個人とは異なります。
個人の場合、物件の引き渡し日と(買主側の)金融機関のローン実行、買主の残額決済、所有権移転登記、抵当権設定登記を同日に行います。つまり、引き渡し日が不動産売買取引の完了日とされます。
法人の場合、引き渡し日を収益計上の日とすることもできますが、不動産売買契約日(効力発生の日)を収益計上の日とすることも可能です。不動産売買契約日と引き渡し日は異なるのが通常ですが、契約成立日の事業年度と引き渡し日の事業年度が異なるという状況も発生するため、法人はどちらの日付で収益を計上してもよいルールとなっています。
これにより、その事業年度の課税所得が変わり法人税額が変わる可能性があります。法人税額と支払い時期を調整できるため、財務戦略に基づいて慎重な判断が求められます。
「低額譲渡」のリスク
不動産を市場価格よりも低い価格で売却した場合、税務署から実勢価格に基づく課税を求められることがあります。これは、「低額譲渡」が意図的な利益供与とみなされる可能性があるためです。
例えば、グループ会社や親族に市場価格を大きく下回る金額で不動産を売却した場合、税務調査で時価との差額分が課税対象となるリスクがあります。そのため、売却価格を設定する際には、適正な市場価格に基づいて慎重に決定する必要があります。
これらの注意点を事前に把握し、適切に対応することで、不動産売却時の税務リスクを軽減し、余分な負担を回避することができます。
まとめ
不動産売却において、法人と個人の間には税金に関する大きな違いがあります。法人の場合、売却益が事業全体の所得に影響し、法人税をはじめとする複数の税金が発生します。一方、個人では譲渡所得として分離課税が適用され、特定の控除や所有期間に応じた優遇税率が適用される場合があります。
法人が不動産を売却する際は、税制の仕組みを正確に把握し、節税方法を取り入れることで税負担を軽減できます。専門家の助言を活用しながら、計画的に資産運用を行いましょう。
morita
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