擁壁がある土地は一見魅力的に見えるものの、不動産市場では売却が難しいと言われることがあります。
その理由はどこにあるのでしょうか?
この記事では、以下の内容をわかりやすく解説します。
- 擁壁のある土地の特徴
- 売却における課題、
- 対処方法や注意すべきポイント
土地の売却を検討している方も、購入を考えている方も、ぜひ参考にしてください。
目次
擁壁がある土地とは?
擁壁は、土地の形状や地盤の安定性を保つために設置される重要な構造物です。
特に住宅地では、傾斜地や高低差のある土地を有効活用するためには、欠かせません。
しかし、擁壁には法的な規制が数多く存在し、それを理解しないまま土地を選ぶとトラブルになる可能性があります。
本章では、擁壁の役割と種類について詳しく解説します。
擁壁の目的
擁壁の最大の目的は、地盤を安定させることにあります。
傾斜地や高低差がある土地では、雨水や地震などの影響で土砂崩れが発生するリスクがあります。
擁壁は、そうした土砂崩れを防ぐために設置されるもので、土地の安全性を確保する上で重要です。
建築基準法では、高さが1.5メートル以上の擁壁を設置する場合、建築許可が必要です。
この規制は、擁壁が倒壊することによる被害を未然に防ぐためのものであり、法的な規制が安全性の確保につながります。
また、都市計画法においては、擁壁を設置する位置や形状にも制限が設けられており、地域の景観や周囲の土地との調和を保つ目的があります。
さらに、宅地造成等規制法では、造成工事に伴う擁壁の設置や改修が義務付けられるケースがあります。
これらの法律は、土地利用の安全性や適正な管理を確保するために策定されており、擁壁の設置が必須となる場面が多くあります。
法規制を守らない場合、100万円の罰金が科される可能性があるため、擁壁の計画は慎重に行う必要があります。
擁壁の種類
擁壁にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴と用途があります。
主に使用されるのは、「重力式擁壁」「杭式擁壁」の2つです。
重力式擁壁は、コンクリートや石材を用いて作られた、重量によって土圧を支えるタイプの擁壁です。
設計が比較的簡単で、耐久性に優れているため、住宅地でも多く採用されています。
杭式擁壁は、地面に杭を打ち込んで支持力を得る方式で、特に軟弱地盤で効果を発揮します。
この方式は施工に高度な技術を要しますが、柔軟性に優れており、土壌条件が悪い地域での使用ができます。
擁壁における法規制
擁壁は、土地の安全性を確保するための重要な構造物ですが、その設置や改修には複数の法規制が関わります。
特に宅地における擁壁は、法的基準を満たすことが求められ、これを怠ると重大な問題を引き起こす可能性があります。
ここでは、擁壁に関連する主要な法規制について詳しく解説します。
建築基準法
建築基準法では、擁壁の高さが2メートルを超える場合に特別な規制が適用されます。
この基準は、擁壁の安全性を確保するために設けられており、高さが一定以上の擁壁に対して構造計算や設計基準の確認が必要です。
擁壁が不適切な設計である場合、地盤の崩壊や建物への影響を引き起こす恐れがあるため、この規制は非常に重要です。
特に古い擁壁については、現行の建築基準法を満たしていない場合も多いため注意が必要です。
こうした違反擁壁の存在は、土地の売買や建築計画において大きなリスク要因となることがあります。
そのため、擁壁付きの土地を購入する際には、事前に専門家による調査を行い、法的基準を満たしているかを確認することが推奨されます。
都市計画法
都市計画法では、都市計画区域または準都市計画区域内での擁壁の設置に際し、特別な注意が求められます。
これらの地域で擁壁を設置する行為は、都市計画法第4条第12項で定められる「開発行為」に該当する可能性があり、事前に確認申請が必要となります。
この申請プロセスは、地域の景観保護や土地利用の秩序を保つために不可欠です。
例えば、傾斜地や高低差のある土地では、擁壁が都市計画区域の安全性に直接影響を及ぼすため、各都道府県が独自の運用指針を設けています。
千葉県など一部の地域では、詳細な基準が定められており、申請手続きを怠ると罰則を受ける場合があります。
このように、都市計画法に基づく規制を遵守することは、土地開発の円滑な進行にとって不可欠です。
宅地造成等規制法
宅地造成等規制法は、特に傾斜地や高低差が大きい地域で適用される法規制です。
この法律では、宅地造成工事規制区域内で行われる造成工事において、擁壁の設置や改修が義務付けられることがあります。
これにより、土地の崩壊や災害リスクを低減し、居住者の安全を守ることを目的としています。
具体的には、擁壁の高さや構造に関する詳細な基準が設けられており、これを満たさない場合は土地の利用が制限される場合があります。
さらに、区域ごとの規制内容や基準は異なるため、地域の条例や指針を事前に確認することが重要です。
これに違反した場合、行政からの指導や罰金などの厳しい処分が科されることがあります。
擁壁の安全性と基礎・安息角の関係
安息角とは、土壌が自然に崩れて流れ出す角度のことで、安息角の角度が低くなるほど崩れやすく不安定な土壌であると考えられえます。その目安は30度前後とされます。
安息度が30度以下の土壌では、安全性を高めるために、より強固な擁壁の建築が求められます。
そのため基礎を深くするなど工費が通常よりも3から5割増しで多くかかります。
擁壁が土地の価値に与える影響
擁壁の存在は、その土地の安全性の不安材料です。
また、古い擁壁のある土地は、建物の改築、新築時に建築許可が得られず、擁壁の補修を求められる場合もあり、擁壁自体を建て替えざるを得ないことも。
そのため擁壁のない土地よりも、20〜30%価格が下がる可能性があります。
擁壁の寿命
擁壁の寿命は一般にコンクリート製は50年、自然石は100年程度とされています。
いつ建築されたのかはっきりしない場合はもちろんですが、耐用年数以内の場合も専門家による調査な調査をおすすめします。
売却前の調査の結果、安全性が保障されれば売却の交渉も進めやすくなります。
事前の調査のより擁壁の寿命がはっきりすることで、売却価格にも良い影響が出るでしょう。
擁壁のメリット
擁壁のメリットには以下の2点があります。
・がけ崩れなどの土砂災害を防ぐ
・日当たりをよくする
がけ崩れなどの土砂災害を防ぐ
擁壁建築の主な目的は、地盤を安定させて、高低差のある土地のがけ崩れなどの土砂災害を防ぐことです。
また、盛土をして造成した宅地では、その上に住宅を建てることで地盤に圧力がかかって崩れやすくなります。
そのため、条例で義務付けられている高低差2m以内の土地であっても、擁壁工事をした方がよい場合もあります。
日当たりをよくする
たとえば、道路よりも土地が低い場合や、周囲の家よりも低い土地に家を建てる場合は、盛土をして宅地を造成して擁壁を建築するケースもあります。
住宅の日当たりがよくなるのも擁壁建築のメリットのひとつです。
擁壁がある土地が売れない理由
擁壁がある土地は、その構造や状態によって売却が困難となる場合があります。
特に、安全性や経済的な負担、管理責任の問題が絡むため、買主が敬遠するケースが少なくありません。本章では、具体的な理由とその背景について解説します。
危険な状態だから
擁壁が危険な状態である場合、売却は非常に難しくなります。例えば、以下のような状況が該当します。
- 擁壁にひび割れや変形が生じている
- 異なる素材を組み合わせた2段積みの擁壁
- 自然石を積み上げた擁壁
- 許可を得ずに設置された擁壁
こうした擁壁は地震や大雨などの自然災害時に崩壊するリスクが高く、周囲の土地や建物に被害を及ぼす可能性があります。
そのため、現状のままでは売却先が見つからないことが多いです。
ただし、擁壁が危険な状態であっても、適切な工事を行えば安全性を確保できます。
工事後に建物が建てられる土地として売却が可能となるケースもありますが、後述するように工事費用が大きな壁となります。
工事費用がかかるから
危険な擁壁を修繕または新設するための工事費用は、数百万円単位に上ることが一般的です。
小規模な修繕でも300万円程度、大規模な工事では500万円以上が必要となることがあります。
このような高額な費用負担が、買主の意欲を削ぐ原因となります。
そのため、売却予定の土地に危険な擁壁がある場合、売却価格から工事費用を差し引いた金額で取引されることが多くなります。
これにより、売主が期待する価格での売却が難しいです。
また、買主側にとっても、購入後の負担が増えるため、交渉自体が成立しないことがあります。
管理責任が所有者にあるから
擁壁の管理責任は、基本的にその土地の所有者にあります。
これには、擁壁の安全性を維持し、周囲に被害が及ばないよう適切に管理する義務が含まれます。
万が一、擁壁が崩壊や倒壊して隣地や公共の財産に被害を与えた場合、その責任は土地の所有者が負う必要があります。
このようなリスクは、買主にとって大きな不安要素となり、結果として購入を躊躇させる原因です。
特に、古い擁壁や危険性の高い擁壁がある土地では、この管理責任が大きな障壁となります。
こうしたリスクを回避したい買主にとって、その土地は魅力的でないため、買い手がつかない場合が多く見受けられます。
擁壁の安全性が確認できなかったときには、補強工事をおこなってかは不動産売却するのもおすすめです。
もちろん補強工事をしないままでも売り出すことは可能ですが、安全性が確保されていない土地は売れにくく、大幅な値下げを要求される可能性も高いです。
そこで現行の建築基準を満たすよう事前に補強工事をおこなっておけば、早期の不動産売却が期待できます。
擁壁がある土地を売却する方法と注意点
擁壁のある土地は、地形の特性や法的な制約から売却が難しい場合があります。
しかし、適切な対処を行うことで、土地の価値を高め、スムーズに売却することが可能です。
ここでは、擁壁のある土地の売却に向けた具体的な対策と注意点について解説します。
専門家に依頼して擁壁の安全性を確認する
高低差のある土地を売却する際には、まず擁壁の安全性を確認することが最優先です。
買主は土地の安全性を重視するため、安全性が確認された土地は信頼性が高まり、売却がスムーズに進む可能性が高まります。
擁壁の安全性を確認するためには、建築士や建築調査会社などの専門家に依頼することをおすすめします。
専門的な調査では、擁壁の構造や耐久性、そして現行の建築基準法に遵守しているかを詳細に確認します。
特に古い擁壁や長期間放置された擁壁の場合は、老朽化や構造的な欠陥が発見されることもあるため、慎重な調査が必要です。
調査結果が「安全」と判断された場合、土地の信頼性が向上し、買主に安心感を提供できます。
逆に安全性が不確かな場合、買主が購入をためらうだけでなく、大幅な値下げ交渉を受ける可能性もあります。
補強工事を行う
擁壁の安全性に問題があった場合、補強工事を行うことで土地の価値を高めることができます。
補強工事を行わずに売り出すことも可能ですが、その場合、土地の安全性に不安が残り、購入希望者が現れにくい状況に陥る可能性があります。
また、価格の大幅な値下げを求められるリスクも伴います。
補強工事を通じて擁壁を建築基準に適合させれば、土地の安全性が確保され、早期売却が期待できます。
工事費用は発生しますが、これによって売却価格が向上する場合もあるため、長期的に見るとメリットが大きいでしょう。
補強工事の具体的な内容については、施工業者とよく相談し、予算や土地の状況に合ったプランを選ぶことが重要です。
擁壁を解体する
擁壁のある土地に古い建物が建っている場合、建物を解体して更地にすることで売却が容易になることがあります。
擁壁付きの土地は、改築や建て替えの費用が高くなる可能性があり、購入希望者にとって負担となることが多いためです。
ただし、解体に際しては再建築の可否を確認する必要があります。特に接道義務を満たしていない土地の場合、解体後に新築ができない「再建築不可物件」となるリスクがあります。
解体を検討する際には、必ず専門家や行政に確認を行い、再建築が可能な土地であることを確保するようにしましょう。
こうした手続きにより、買主にとっての安心感を高め、円滑な売却につながります。
売却実績が豊富な会社に依頼する
擁壁がある土地を売却する際には、実績が豊富な不動産会社に依頼することがおすすめです。
擁壁のような特殊な構造物を含む土地の売却は、専門的な知識と経験が必要です。
一般的な不動産会社や買主では対応が難しく、結果的に売却までの時間が長引くケースが多いため、信頼性の高い仲介者を選ぶことが重要です。
買取業者に売却する
擁壁のある土地のように買主が見つかりにくい物件では、不動産会社の買取を検討するのも有効な手段です。
不動産会社による買取は、売却プロセスを短縮しつつ、トラブルを最小限に抑えることができます。
買取業者は、擁壁の補強工事や現状のままの売却を前提とした柔軟な対応が可能です。
さらに、個人の買主とは異なり、擁壁の安全性に関する不具合が発見された場合でも、適切な対応を行うスキルを持っています。
また、買取の場合、売主が契約不適合責任を負う必要がない点も大きなメリットです。
固定資産税の評価減を行う
土地の広さは擁壁部分も含めて表示します。
なので、実際住宅が建てられない擁壁部分にも固定資産税がかかり、擁壁のない同じ広さの土地よりも、税金の割高感があることは否めません。
「擁壁のある土地は固定資産税で損をするのでは?」
というイメージは、購入を渋る理由のひとつです。
ですが、宅地に対する擁壁などの傾斜地の割合により評価額が調整され、その結果固定資産税が減額されることがあります。
これを固定資産税の評価額減(補正)といいますが、所有している擁壁などの傾斜地を含む土地が補正済みであるかどうかはケースバイケースです。疑問がある場合は、市区町村役場に照会してみましょう。
万が一、補正されていない場合は、実地調査を依頼します。
土地の評価額の減額割合は以下の通りです。
宅地に対するがけ地の割合% | 減価(補正率)の割合% |
90 | 45 |
80 | 40 |
70 | 35 |
60 | 30 |
50 | 25 |
40 | 20 |
30 | 15 |
20 | 10 |
10 | 5 |
たとえば、200㎡の総敷地の評価額が10万円/㎡であった場合に、がけ値率が20%だった場合、減価(補正)率は10%で、
10万円×200=2000万円 の評価額が 1800万円に補正されます。
固定資産税や都市計画税はこの評価額に税率をかけて計算されます。
まとめ
擁壁がある土地は、地形の安定を図るために設置される重要な構造物です。
しかし、その特殊性ゆえに売却時にはいくつかの課題が伴います。
擁壁の種類や目的、法規制について正しく理解することはもちろん、建築基準法や都市計画法、宅地造成等規制法といった関連法規に準拠しているかどうかを確認することが大切です。
また、擁壁がある土地が売れにくい理由として、危険性の懸念や工事費用の負担、管理責任の複雑さが挙げられます。
これらの問題に対応するには、専門家に安全性を確認してもらったり、必要に応じて補強工事や解体を行ったりすることが有効です。
さらに、売却実績が豊富な不動産会社に依頼することで、特殊な条件を持つ土地の売却でもスムーズに進めることができます。
加えて、不動産会社の買取サービスを利用するのも一つです。
買取では契約不適合責任を回避でき、売却後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
これらの対策を講じることで、擁壁のある土地でも適正な価格で売却しやすくなります。正しい知識と適切なサポートを活用し、土地の価値を最大限に引き出して成功に導きましょう。