不動産投資を行っていく上で、1つ目の物件の収益が軌道に乗り始めたら次にどうすれば良いのでしょうか?
不動産投資で収益を増やしていくには、戸建や区分などを1戸ずつ増やしていく方法と、1棟物件を買い進める方法があります。
小さな物件を増やしていくにも規模の大きな物件に切り替えるにも、不動産投資を行うための資金が潤沢でなければ行うことができないのでしょうか?
不動産投資で収益を増やしていく上で活用できる「1法人1物件スキーム」についてご紹介します。
目次
1法人1物件スキームとは?
ところで1法人1物件スキームとはいったい何なのでしょうか?
サラリーマンが不動産投資を行う場合は、個人が不動産を購入し運用を行いましたが、1法人1物件スキームの場合は、不動産を購入するのが個人ではなく法人になることになります。
それでは、詳細について見ていきましょう。
具体的な方法と流れ
1法人1物件スキームを図式すると以下のようになります。
1法人1物件スキームの場合は、物件を所有するために法人を設立し、1つの法人で1つの物件を所有する方法になります。
物件を取得するために融資を受ける銀行は、1社ではありません。1つの物件ごとに融資を受ける銀行の変更を行っていきます。
この方法を使うことによって唯一変わらないのは、銀行から融資を受ける際に連帯保証人になる法人の設立者の不動産オーナーだけになります。
この方法で買い進めるための条件
1法人1物件で買い進めるための条件を項目ごとに見ていきましょう。
①個人の年収や保有資産
1法人1物件スキームを利用する場合は、融資を受ける法人の実績が存在しないため、個人がどの程度の資産を保有しているかが重要になります。
個人の資産に含まれるのは以下の通りです。
- 現金(預貯金も含む)
- 有価証券など
- 不動産(抵当権なし)
最低でも年収1000万円や資産3000万円程度確保できているほうが、銀行からの融資を受けやすくなるでしょう。
②個人の借り入れ
銀行の融資は新設法人に対して行われるものの、実質法人の代表である対して行われているのと同じため、個人として融資を受けている場合には、銀行からの融資を受けにくくなる場合があります。
このスキームを利用する場合には、個人の借り入れを完済してから新設法人の設立を行う必要があるでしょう。
③物件の選別
資産があるからと言ってどんな物件でも融資を受けることができるわけではありません。保有物件のキャッシュフローが良好であり、融資の額とのバランスがとれている必要があります。
キャッシュフローが良好な物件を運用することが、結果的には次の融資を受けやすくすることになるので、物件選別には時間をかけるようにしましょう。
1法人1物件スキームのメリット
1法人1物件スキームのメリットを項目ごとに見ていきましょう。
融資枠を多く取れる
例えば、年収が1000万円以上で保有資産が3000万円以上の状況で、個人で融資を受けて不動産投資を行ったとすると、複数の銀行からの融資を受けることが基本的にはできません。
個人で融資を受ける場合は、個人の信用情報が記載されてしまいます。金融機関は貸し倒れを防ぐためにも信用情報の確認を行い、多重債務を負っている場合には融資を行わなくなるでしょう。
法人の場合も法人の信用情報が記載されてしまいますが、1法人1物件スキームを利用することで、融資を受ける法人が物件ごとに異なるため、信用情報の確認を行っても何も存在しないことになります。
また、法人を新設する場合には設立者であるオーナーが連帯保証人になりますが、融資は法人で受けているため個人の信用情報には何も存在しておらず、実質上限がなく融資を受けることができるでしょう
その分収益も伸びる
個人で融資を受けながら複数の物件の運用を行うことには限界がありますが、1法人1物件の上限がない融資を受けることができるというメリットを最大限に活かすことで、複数件の物件の運用を行うことができます。
それに伴い、収益も上乗せされることになるので、個人が融資を受けて不動産投資を行うよりも圧倒的に収益を多く獲得できることになるでしょう。
圧倒的な拡大スピード
個人で融資を受けた場合と1法人1物件スキームを利用して不動産投資を行った場合の違いを物件A・B・Cの運用を行うという設定でシミュレーションしてみましょう。
・個人で融資を受けた場合
個人で融資を受けて不動産投資を行う場合には、基本的には物件を1つ購入するごとに融資を受ける必要がでてきます。
金融機関を変更することで追加融資を期待できそうですが、実際には個人の信用情報への記載が行われているため、他の金融機関から追加融資を受けることが期待できません。
物件を1つ購入して融資を受ける場合には、返済が完了するか金融機関と信頼関係が築けていてほぼ返済が完了している場合でないと、次の融資を受けることができないでしょう。
そのため、物件A・B・Cの運用が行えるようになるには返済が1つ1つ完了してからになるので、かなりの時間を要することになってしまいます。
1法人1物件スキームで融資を受けた場合
1法人1物件スキームで融資を受けて不動産投資を行う場合には、物件ごとに法人を設立し融資を受けているため、法人数の数だけ融資を受けることができます。
1法人で融資を受ける場合や個人で融資を受ける場合は信用情報の影響を受けますが、物件ごとに法人が異なっているため、信用情報の影響を受けず融資に対する上限が存在しません。
そのため、法人を設立した分だけ融資を受けることができ物件を所有することができるため、圧倒的なスピードで不動産事業を展開していくことができます。
消費税還付
運用を行っているのが法人の場合には消費税還付を受けることができます。
消費税の還付を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
①消費税の課税事業者になる
②物件の引き渡し時に課税売上を計上する
それでは、消費税還付の計算式は以下の通りです。
分数の部分に関しては課税売上が全体の売り上げに対して、どれだけの割合を占めているかを表していることになります。
まず消費税の還付を受けるためには、不動産投資を行う法人が消費税の課税事業者として届け出を行わなくてはなりません。
不動産の運営を行う場合の収益として想定されるのが、テナントとして事業者への賃貸(課税)、居住用として個人への賃貸(非課税)の2つに分かれます。
この場合に、もし非課税の収益しか存在しない場合には消費税還付を受けることはできません。
それでは、実際に還付される消費税がいくらくらいになるのかシミュレーションしてみましょう。
条件①
- 物件価格1億円
- 消費税合計900万円
- テナント収益100%
- 居住用家賃収入0%
条件②
- 物件価格1億円
- 消費税合計900万円
- テナント収益80%
- 居住用家賃収入20%
以上のように、課税割合が高いほうが消費税の還付を受ける率が高くなることがわかります。消費税があと数年で2%上乗せされることを考えると、消費税還付を利用しない手はありません。
しかし、消費税還付に関しては平成28年度の消費税法改正によって3年間は免税事業者になることができないなどの制限が加えられました。
税制改革によって、消費税還付がより複雑な制度になってしまったので、もし消費税還付を希望する場合には税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
個人での借り入れはなし
1法人1物件スキームで融資を受ける場合には、契約を行うのは法人であり、あくまでも個人(法人の代表)は連帯保証人という立場になります。
そのため、個人で借り入れが生じることはありません。
返済も個人の所得から行うのではなく法人の売り上げから行うことになるので、結果的に節税にもつながることになるでしょう。
1法人1物件スキームのデメリット
個人であれば融資を受ける際に上限があるため、不動産投資の利益を最大限に発揮できず機会損失が生じてしまいますが、1法人1物件スキームではチャンスを最大限に活かし、収益を大幅にアップすることができます。
しかし、ここ数年でこのスキームに関して規制が生じるなど先行きが怪しくなってきており、必ずしも融資を受けることができるとは限りません。
1法人1物件スキームにおけるデメリットを見ていきましょう。
一括返済を迫られる可能性
多重債務であることがバレてしまった場合や融資を受ける各金融機関の経営状況や諸事情によっては、一括返済を求められる場合があります。
1法人1物件スキームを利用している場合には、1法人当たり上限まで融資を受けている場合が多く、一括返済を求められても今日明日でどうにかできる問題ではありません。
一括返済を求められた法人で購入した物件を売却することで補填するか、返済が終わっている他法人の物件を売却して資金調達をしなければならないなど、対応に四苦八苦することになるでしょう。
「期限の利益損失」に該当する
融資を受ける側は各金融機関と契約によって決められた返済期間に基づいて返済を行っていきます。返済期限が決められていないと借りた翌日に返済を求められる可能性もあるため、安心して借りることができません。
このように、返済期限が決まっていることによって返済期日まではお金を返さなくていいことになり、このような借りる側によって有利な状況を「期限の利益」と言います。
しかし、一括返済を求められる可能性があるということによって、期限の利益が消失してしまうことになるため、安心して融資を受けることができなくなってしまうでしょう。
個人所得を増やせない
物件を所有して運用しているのが個人ではなく法人であるため、家賃収入は全て法人に入ります。
法人からの役員報酬などの形で個人所得として家賃収入を得るのですが、返済を差し引いて余った金額の全てを報酬として得ることができるわけではありません。
融資を受けている以上は、法人としてのキャッシュフローを良好な状態に保つ必要があります。
現行の税制では、法人税と所得税を比較すると法人税は一律であるのに対し、所得税は所得が多くなればなるほど課税額が大きくなる累進課税を適用しているため、個人の所得を増やすことにメリットがあまりありません。
不動産業者の協力が必要
不動産会社は、融資を受ける場合にも物件を選定する場合にも重要な存在になります。
融資を受ける場合
不動産会社によっては信頼関係を築くことができている金融機関を抱えている場合があります。
いきなり個人で法人を新設して融資を受けて不動産投資を行おうとしても、付き合いのない金融機関などはたとえ利息による収入が増えるとしても融資を簡単に行ってくれたりはしません。
不動産会社にとっては、融資を受けて物件を購入してもらえれば購入に対する手数料、管理を任せてもらえれば管理費用を請求することができるため、融資が円滑に進むようにサポートをしてくれる場合があります。
物件を選定する場合
物件を選定する場合にも、個人が何となく良さそうだからといって決めた物件に対して、金融機関は融資の承認を行ってくれたりはしません。
きちんと不動産会社に金融機関の人が承認を行いやすいような好条件の物件を選定してもらい、返済計画などのアドバイスをもらうことで融資を円滑に進めることができます。
また、多重債務に対する実態がバレてしまっては元も子もないので、不動産会社に1法人1物件スキームの相談を行い、協力してもらえる不動産会社を見つけ良好な関係を築いておくようにしましょう。
繰り上げ返済ができない
銀行は金利分の利息を得ることを目的に融資を行います。融資を行っている相手方が繰り上げ返済を行ってしまった場合には、銀行が本来予定した利息収入を確保できません。
そのため、特に融資金額が大きい場合には最初から繰り上げ返済を受け付けない旨を記載した契約書を交わすことも多く、その際には利息を少しでも抑えたくても繰り上げ返済が行えないので注意が必要です。
レバレッジが効きすぎる
個人で融資を受ける場合には、自分の所得や保有資産の状況に応じて限界がありますが、1法人1物件スキームを利用した場合の融資には実質限界がありません。
そのため、自分の身の丈以上の融資を受けることが可能になりますが、法人を新設しすぎて融資を受けすぎた場合にはレバレッジが効きすぎることになります。
そのため、キャッシュフローが1つでも悪化すると、融資の返済に支障が生じてくることになるので、不動産投資全体に影響が及ぶようになるでしょう。
法人スキームがバレるケース
「この方法なら不動産投資でぼろ儲けできる」と思って早速始めようと思った人も多いとは思いますが、法人スキームはバレてしまうとペナルティが生じる可能性があるので注意が必要です。
法人スキームがバレるのは以下の通りです。
法人の住所
最も多くバレる理由の1つが法人の住所登録です。マイナンバー制度によって個人や法人の情報が簡単に手に入るようになりました。
法人を新設するのはいいのですが、新設にあたり実際にビルを建設したりフロアを借りるなどの手間をかけることはなく、基本的には自宅を法人の事務所として登録する場合が多くなります。
その結果、実体の存在しない形だけの法人であることがバレてしまい、一括返済を迫られる可能性が高くなってしまうでしょう。
法人の登記簿
住所を変えていたからといって安心はできません。個人や法人の情報は簡単に手に入ってしまうため、役員が重複していることがバレてしまえば、結果的に同じ結果を迎えてしまうことになります。
個人の信用情報
自分の家を新築しようと住宅ローンを組んだ場合などには個人の信用情報に記載されることになります。
それ以外にも、個人の信用情報に連帯保証について融資を受けている各金融機関の誰かが記載を行った場合には、芋づる式で連帯債務が生じていたことが発覚するため、その他のバレた場合と同様に一括返済を迫られる可能性が高くなってしまうでしょう。
一括返済を迫られてしまった場合には、物件の処分も簡単ではないため、自己資金に余裕がない限り自己破産を行うしか選択肢はなくなってしまいます。
1法人1物件スキームは、不動産投資を行う上で気を付けなければならないのは、1つ1つの法人で運用する物件をしっかり管理し、良好なキャッシュフローを保つことです。
キャッシュフローを良好に保っている場合には、多重債務が表に出てくることはないので1法人1物件スキームを利用し続けることが可能になるでしょう。
しかし、各金融機関が融資に対する方針を変えた場合や不動産投資に対する行き過ぎた貸し付けを国が規制した場合には、状況が一変する可能性があります。
不動産投資を取り巻くニュースをしっかりチェックし行き過ぎた融資を受けないようにするなど、リスク管理をしっかりと行うようにしましょう。
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