不動産投資家にとって最も大切なポイントは、初期投資を抑えて高利回りの物件を運用することになります。
不動産投資セミナーや不動産投資の本を参考にしていると「初期投資を抑える競売や公売物件は狙い目だ」という言葉に触れることがあると思いますが、一体どのようなものなのでしょうか?
競売と公売の仕組みとメリットデメリットについて見ていきましょう。
目次
競売と公売の特徴
競売と公売には債務者と債権者の間における債務に対して、債務不履行が生じた場合の対策に違いがあります。
- 債務
お金を借りた場合などに返さなければならない義務 - 債権
お金を貸した場合などに返還を請求できる権利 - 債務不履行
返さなければならない義務を果たさない
それぞれの違いについて見ていきましょう。
競売とは?
競売とは債務者と債権者の間において発生していた債務に対して債務不履行が生じた場合に、担保となっていた不動産や動産を債権者が裁判所の管轄下で強制的に売却することを指します。
住宅ローンの借り入れを行っていて債務者の返済が滞ってしまい、融資金額の回収を行うために債務者が担保となっていた物件を売却する場合などに競売が用いられます。
公売とは?
公売とは税金(所得税、相続税など)の滞納によって、国税局や税務署などによって差し押さえられた不動産や動産などを入札という手法を用いて売却する方法を指します。
競売は債務不履行などが生じた場合に金融機関などが裁判所に申し立てを行って売却を行うのに対し、公売は官公庁が権限に基づいて売却を行うという違いがあります。
競売や公売のメリット
競売や公売が担保の売却を行うことで債務不履行を賄うということはわかりましたが、不動産投資家たちにとっては競売や公売で不動産を取得するメリットがあるのでしょうか?
競売や公売をうまく活用することで生じるメリットについて見ていきましょう。
安く買える可能性がある
競売や公売の場合は本来の所有者である持ち主から直接物件の購入を行うわけではなく、債権者に担保として引き渡された物件を買い取る形になります。
通常よりも資産価値を低く見積もって物件価格の決定を行うことため、市場価格よりも20~30%以上安く物件を手に入れることができるというメリットがあります。
諸費用が安く抑えられる
通常中古物件の購入を検討する場合、不動産会社を介して物件を紹介してもらったり手続きを行ったりしますが、不動産会社を経由することによって仲介手数料として物件価格の3%程度が諸費用として発生します。
競売や公売で担保となっている中古物件を購入する場合には、不動産会社を介さないため仲介手数料が発生せず、諸経費を安く抑えることができるでしょう。
競売や公売の代行を行っている不動産会社に代行を委託をした場合には、各社が定める手数料が発生するので注意が必要です。
リースバックできることもある
所有していた不動産が競売にかけられてしまった場合には、物件の所有者であった当事者はその競売に参加することができません。
何とかして思い出のつまった物件に住み続けたいと願う人も多くいらっしゃいますが、競売に参加することができないという状況で住み続けることができるのでしょうか?
そこで登場するのがリースバックによって物件に住み続けるという方法です。
リースバックとは、物件そのものは一度競売にかけられてしまうので所有者は変わってしまいますが、その物件の賃貸を行うことによって物件に住み続けるという手段になります。
運用を行うつもりで競売や公売に出された物件を購入した場合には、リースバックを求めてくる可能性もあるので、選択肢の1つとして検討しておいても良いでしょう。
競売や公売のデメリットとリスク
単純に競売や公売について考えてみると、初期投資を低く抑えることでリスクを最小限に抑えながら高利回りを達成できるというメリットしかないように思われますが、実際はどうなのでしょうか?
競売や公売に隠されたデメリットについて見ていきましょう。
滞納金の不足
競売や公売の対象がマンションなどの区分所有の建物であった場合、滞納している管理費や修繕積立金、駐車場の費用などがあると落札者が代わりに負担しなければなりません。
競売物件の場合には、裁判所によって作成された3点セットと呼ばれる「現況調査報告書」「評価書」「物件明細書」という3つの書類を確認し、入札額以上に費用が発生するかどうかを事前に調べておく必要があります。
書類の詳細は以下の通りです。
- 現況調査報告書
・物件目録(所在地や構造、床面積など)
・関係人の陳述等(所有者の状況や債務関係など)
・執行官の意見(物件の問題点など) - 調査の経過(いつ調査を行ったかなど)
・土地建物位置関係図(位置関係や形状、方角など)
・建物間取り図(方角による間取りの状況など)
上記に加えて占有者がいる場合などは、それに関する書類などが付加されます。 - 評価書
・評価額(通常の評価額に競売による減価額によって算出)
・評価の条件(売主の協力が得られていない場合もここに記載)
・目的物件(物件の登記情報)
・目的物件の位置、環境等(物件の位置関係や周辺状況)
・建物の概況及び利用状況(建物の耐用年数や仕様など)
・評価額算出の過程(算出された評価額の詳細)
・参考価格資料(周辺の地価調査価格)
・付属資料(白地図などの資料) - 物件明細書
・事件番号(裁判所に提出されている競売についての番号)
・不動産の表示(所在地や構造などの物件の詳細)
・売却により成立する法定地上権の概要(競売で土地と建物の所有関係に問題が生じる可能性の有無)
・買受人が負担することとなる他人の権利(賃借権など前所有者の負担を継続するかの有無)
・物件の占有状況等に関する特記事項(所有者が占有しているかどうかなど)
・その他買受けの参考となる事項(その他物件に関する問題など)
物件情報を自力で調べる必要がある
通常不動産会社が取り扱っている中古物件を調べたい時は、不動産会社のホームページを調べたり不動産会社に問い合わせて詳細を知ることができますが、競売や公売の場合はどうなのでしょうか?
競売の場合は、裁判所などによって作成された3点セットなどの資料をインターネットからダウンロードする以外は自分自身で資料を集めなければなりません。
公売の場合は、競売と比較するとより多くの情報がインターンネット上などに公開してありますが、それ以上の情報については、競売同様自力で調べる必要があります。
退去させる手間
不動産会社を介して中古物件の購入を行う場合には、契約が成立した段階で入居者が退去し新しい入居者に引き渡すことになりますが、競売の場合には簡単に引き渡しが行われない場合があります。
占有者が競売の状況に納得して退去している場合は問題がないのですが、納得しておらず占有し続けている場合には強制退去を行わなければなりません。
法的には落札者が保護されるような仕組みにはなっているのですが、占有者の退去へ導いたり占有者の残留物の処分の手続きなどを行うのが落札者主体となるため、通常の購入より負担が多くなってしまうでしょう。
物件の不具合はすべて自己責任
中古物件を購入した時に、物件に隠れた問題(瑕疵)があった場合には誰が責任を負うのでしょうか?
本来であれば、購入者は物件が完璧な状態で提供されていると思い購入を決心するため、物件に隠れた問題が生じていた場合には瑕疵担保責任を売主が負わなければなりません。
10数年居住していたマンションの売却を行った後に、備え付けられている浴室乾燥機が不調とのことでその修繕費をこちらが負担したという経緯があります。
競売や公売の場合も、持ち主に瑕疵担保責任が発生するのでしょうか?
競売や公売の場合には持ち主に瑕疵担保責任が発生せず、隠れた問題(瑕疵)があったとしても自分自身で修繕を行うなど対策を練らなければなりません。
3点セットにある程度の記載が行われているので事前に確認することはできますが、落札した後に瑕疵に気づくこともあり、安価で落札したものの修繕に予想以上の費用を要してしまう可能性があるでしょう。
法的なトラブルの可能性
想定される法的なトラブルは以下のようなものがあります。
占有者の残留物のトラブル
占有者を強制退去させることを無事に行うことができたとしても、占有者の残留物をきちんと処理しなければなりません。
競売や公売で所有権が移転するのはあくまでも不動産の部分で、占有者の残留物に対する所有権は占有者に残ったままになるので勝手に処分してしまうと不法行為に該当し、訴えられてしまう可能性があります。
占有者の債務トラブル
競売や公売によって落札される物件がマンションなどの区分所有建物で、占有者が修繕費や管理費を滞納していた場合にはその債務を落札者が負担しなければなりません。
管理費や維持修繕費の滞納期間が長かった場合には、かなりの金額に膨らんでいる可能性があり、落札したものの滞納分の債務を肩代わりできないことで自分自身が債務不履行に陥ってしまう可能性があります。
引渡すらできない可能性
競売や公売は債権者による強制売却のため、占有者の意思に関係なく行われることから占有者が占有を続けている状態のまま落札してしまう場合があります。
落札によって所有権が落札者に切り替わるだけで鍵が引き渡されるわけではないので、占有者が拒否し続けてしまえば落札したにもかかわらず引き渡してもらえません。
占有しているのが債務不履行の当事者である場合には強制執行などで立ち退きを求めることができますが、第三者が借りていた場合には保護の対象となる可能性があり、簡単に引き渡しを行うことができなくなります。
第三者の占有に対して対抗することはできますが、法律をしっかりと把握しておかなくてはならないので、トラブルが生じた場合には弁護士などの専門家に相談したほうが良いでしょう。
入札前に内見できない
不動産会社を介して中古物件の購入を行う場合には、その物件に関する書類を見る以外に判断材料の一つとして現地まで足を運び、実際に中を確認することができます。
しかし、競売や公売物件の場合には原則として内見を行うことができず、書面によって物件の内容を確認することしかできません。
競売の場合には3点セットのうちの1つである「現況調査報告書」に含まれる建物間取り図や写真、公売の場合にはインターネット上の情報などを通して、物件の判断を行うことになります。
現金で支払う必要がある
競売や公売に参加する時のお金に関する注意点は以下の通りです。
- 支払いは現金のみ
- 分割ではなく一括で
落札に参加する場合には、一括で現金を納付しなければなりません
落札に参加する時点で全額の支払いを命じられるわけではありませんが、保証金として落札に参加する価格の2割を納める必要になります。
また、落札が決定した場合にはすぐに残りの8割を納付しなければならないため、ある程度の資金を確保しておかなくてはなりません。
競売や公売の物件は、住宅ローンや融資を使うことも可能ですが、支払いまでの期間が短いので金融機関の承認をもらってすぐに融資実行できる体制を整えておく必要があり、難易度は高いです。現実的には一度現金決済をして、あとから融資を取り付ける(バックファイナンス)という使い方になることが多いです。
落札されたにもかかわらず、残金の入金が行われない場合には保証金の返却も行われません。
落札後のトラブルを防ぐためにも、あらかじめ金融機関などに競売や公売で物件の購入を行うことを相談し、融資を円滑に受けることができる環境を作っておきましょう。
落札できるかは不明
競売と公売は必ず落札できるとは限りません。
その理由は以下の通りです。
他の入札者に落札される
Aさんが1000万円で提示している状況でBさんが1100万円で提示している場合には、Bさんが落札者になりますが、Aさんはこの結果を受けて1200万円で再提示を行うことはできません。
周りの状況を考慮しながら途中で金額を変更したりすることができないため、最初から強気の金額を提示している場合を除いて落札できる可能性が低くなってしまいます。
競売は上記のような金額の提示を1回しか行うことができませんが、公売の場合には同様の方式以外にもオークション方式を採用している場合があるため、どちらの方式を採用しているのかしっかり確認しましょう。
競売や公売が実施されない
3点セットなどをしっかり確認し現地にも足を運んで物件の確認を行ったにもかかわらず、競売や公売の取り下げや取り消しによって中止されることがあります。
あくまでも物件取得の方法の1つ
競売や公売は、あくまでも物件取得方法の1つと捉えておく方が良いでしょう。
現在では競売や公売による不動産の取得がセミナーや書物などで取り上げられるようになったことから、以前のような割安物件の数が少なくなってきています。
初期投資を安く抑えられるというつもりで購入したものの、物件の瑕疵や債務の代理によって思っていた以上に初期投資がかかってしまうなど、誰でも成功する投資法とは言えません。
とはいっても良質な物件が安価で手に入る可能性があるので、専門家の知恵を借りながらリスクを最小限に抑えて競売や公売の手段を活用していくようにしましょう。
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