新築アパートの利回りは中古に比べて低いものの、やり方次では十分な収益が見込めます。そのことは、「新築アパート投資法のやり方と目指したい利回り」にてご説明しました。とはいえ、大金を投じる新築アパート投資では、一歩間違えると大きな失敗につながってしまう心配もあります。
今回は、新築アパート投資にありがちな失敗例をご紹介しつつ、そうした失敗をどうしたら回避することができるのか、詳しく解説することにいたします。
目次
新築アパート建築(投資)でよくある5つの失敗例と対策
これから、新築アパート投資において散見される失敗例5つをご紹介します。失敗の原因は何か、どうすれば失敗を回避することができるのか、考えてみることにしましょう。
資金繰りの失敗(土地先決済で家賃入金まで時間がある)
不動産投資では、物件に入居者が住んでくれて初めて家賃収入が得られるようになります。しかし、自分で探した土地にアパートを建てる手法では、次の図に示すように、まず土地を購入する必要があります。そして、家賃収入を得られるようになるのは、土地を購入してからずっと後のこと、図の7番以降になります。
しかし、購入した土地の決済、その先に控える工事請負契約締結の際に支払う工事の着手金、引渡しの際の工事残金の決済と、家賃収入が得られないに間も支払いは続くことになります。
これらの資金をいかにして捻出するか?それが、新築アパート投資で初めに与えられる試練であり、そこで資金繰りが悪化してしまう人が少なくありません。しかし、満室経営を実現することができるのは、アパートの引渡しを受けて数カ月後のこと。本格的に投下資本の回収が始められるのは、そこからになります。
つまり、土地を購入してから半年以上が経過して初めて、満足な家賃収入を得られるようになるのです。
資金繰りへの対策
資金繰りの悪化を防ぐために大切なこと。それは、アパートが本格稼働するまでの資金計画を、あらかじめ十分に練っておくことです。家賃収入が得られない間、返済に充てるお金はどうやって賄うのか?想定した期間で満室にならなかった場合、返済に困ることはないのか?このようなことを自問自答してみてください。
それぞれの問題に対して、回答が用意できたでしょうか?クリアにならない問題があるようであれば、予算を下げるなどプランの見直しを検討してみる必要があるかもしれません。また、日本政策金融公庫からの融資を利用すれば、返済開始を半年ほど遅らせることも可能です。そのような制度を利用することで、家賃収入が得られない間の返済を極力抑えることに成功すれば、資金繰りにも随分余裕が出るのではないでしょうか。
必ず融資予定の金融機関に返済予定を確認し、必要に応じて返済タイミングの交渉をする必要があります。
想定家賃の試算ミス(家賃想定の方法まで解説)
販売図面に掲載されている想定利回りを鵜呑みにしてしまったがために、期待したほどの家賃収入が得られないという失敗もよく聞きます。想定利回りとは想定家賃をもとに計算される利回りのこと。基本的に、新築物件は入居者が居ない状態で買主に引き渡されます。
新築アパートの利回りが、確定利回りではなく想定利回りで表示されるのはそのためです。仮に家賃○○万円(想定家賃)で賃貸したら利回りは何パーセントになるかと言うように、利回りに対する仮説を立てているに過ぎないのです。
利回りの点で、中古アパートに比べてどうしても見劣りしてしまう新築アパート。少しでも高い利回りを謳うために、あり得ないような家賃を想定しているとも限りません。一般的に、「新築」というプレミアが付くことで、相場より高い家賃設定をすることは可能ですが、相場とあまりにも乖離した家賃では借り手が付きません。そこを見破れるかどうかが、失敗を回避できるかどうかのポイントになります。
想定家賃の精度を高くするには
入居希望者が魅力的と感じる最高値を見極めて、その値で家賃設定することができればベストです。そのためには、どうしたらよいでしょう。家賃設定の精度を上げるには、次の2点が重要になります。
相場観を磨く
近隣物件の家賃をチェックして家賃の相場観を磨けば、どの程度の家賃設定が適切か、直感的に分かるようになってきます。また、近隣の新築物件をチェックし、それらの新築物件が相場に対してどの程度上乗せした家賃で募集しているのか確認してみることをおすすめします。「新築」という点で競合する物件と家賃で差別化を図るのであれば、他の新築物件よりリーズナブルな家賃設定にするのもよいでしょう。
近隣競合物件のスペックをチェックする
同じ間取りで、内装と設備が類似している場合、競合物件との差別化は家賃で図るしかありません。他方、間取は同じでも、内装に工夫を凝らしたり、ハイグレードな設備を導入したりしていれば、ありきたりな内装と設備を整えたに過ぎない競合物件より、高い家賃設定で入居者を募集することが十分可能になります。
このように、競合物件のスペック(仕様)をチェックすることは、家賃設定を考える上で重要な作業になります。自分の物件と似たグレードの物件を見つけて、どのくらいの家賃で募集しているのか、また入居状況はどうなのか、確認してみるとよいでしょう。それが分かれば、自ずと設定すべき家賃の値が見えてくるものです。
競合物件の家賃や内装、設備の確認には、SUUMOやアットホームなどのポータルサイトを活用するのが便利です。最近は、写真が豊富に掲載されている物件も多く、情報収集に役立ちます。
建築費の試算ミス(水道工事、地盤改良etc予期せぬ費用)
次の表は、2階建て木造および軽量鉄骨造アパートの建築費の相場を表したものです。建ぺい率を60%とすると、敷地面積50坪の土地には床面積30坪のアパートが建てられ、2階部分も含めた延べ床面積は60坪になります。木造住宅の坪単価は40~60万円なので、これにアパートの延べ床面積を乗じた2,400~3,600万円が、50坪の敷地面積に建てることができるアパートの建築費用ということになります(下表参照)。
しかし、下表に記載されている建築費用は、いわゆる本体工事費のみ。実際には本体工事費の他に、地盤改良や水道の引込みなどライフラインに関連する工事、外構工事など、さまざまな費用が掛かります。
こうした費用が掛かることを知らずに新築アパート投資を始めてしまうと、大幅な予算オーバーにもなりかねません。
敷地面積 | 木造 | 軽量鉄骨 |
50坪 | 2,400万円 - 3,600万円 | 3,000万円 - 4,200万円 |
60坪 | 2,880万円 - 4,320万円 | 3,600万円 - 5,040万円 |
80坪 | 3,840万円 - 5,760万円 | 4,800万円 - 6,720万円 |
100坪 | 4,800万円 - 7,200万円 | 6,000万円 - 8,400万円 |
120坪 | 5,760万円 - 8,640万円 | 7,200万円 - 1億80万円 |
新築にかかるコストを細かく試算
本体工事以外で必要となる工事のコストは、とかく見落としがちです。アパートの新築では、本体工事の他どのような工事が必要なのか、費用とともにご紹介しましょう。
地盤改良工事
地盤改良工事を行うかどうかは、地盤調査の結果を見てということになります。地盤調査は、構造物を安全に支持するための最適な工法を判断するために行われるもの。地盤調査の結果、比較的良好な地盤と判断されれば、地盤工事を行う必要はありません。布基礎やべた基礎と呼ばれる基礎を施工し、その上に建物を建てることができます。
しかし、地盤が軟弱であるなど構造物を指示する強度が十分でないと判断された場合は、次の3とおりのうちいずれかの地盤改良工事を行うことになります。
- 表層改良:約3万円/坪
- 柱状改良:約4-5万円/坪
- 鋼管杭改良:約5-7万円/坪
次の図は、各地盤改良工事を模式的に表したものです。
水道引込み工事
建物を建てる土地の前面道路などに埋設されている水道管から、敷地内に管を引き込んで量水器と接続する工事を水道引込み工事と言います。工事費用は、前面道路に埋設された水道管から量水器までの距離が長くなるほど高額になり、一般的な工事の費用は60万円ほどと言われています。
そもそも、水道管が来ている土地なのかというのも確認が必要です。もとが宅地ではない場合は前面道路への引き込みが必要になり、百万単位の金額が必要になります。
水道負担金
水道の利用を開始するときに、自治体や水道局から水道負担金の支払いを求められることがあります。公共の上水道本管から敷地の前面道路まで水道管を引くにも費用が発生するため、その費用を使用者に負担してもらおうという趣旨の制度です。
水道負担金の額は、設置した量水器の口径によって異なります。口径が13mmであれば5~10万円程度、20mmなら6~20万円程度、25mmなら15~40万円程度と幅があり、自治体によっても金額はさまざまです。ちなみに、東京23区のように、水道負担金が不要な自治体もあります。
外構工事
外構工事の費用は工事内容によって大きく異なるため、一概には言えません。目安としては、本体工事の1割程度と考えておくとよいでしょう。
その他
不動産を取得すると登記が求められます。登記をするには登録免許税という税金を納める必要があり、新築アパートを取得した場合に必要となる建物の所有権保存登記には、固定資産税評価額に対して0.4%、土地の所有権移転登記には2.0%の税率が課せられることになります。
また、不動産を取得したことで、不動産取得税という税金の課税対象者になります。通常、不動産取得税は土地・建物ともに4%ですが、平成30年3月31日までは軽減税率が適用され、軽減税率適用期間中の税率は土地・建物ともに3%となっています。不動産取得税の納税通知を受け取るのは、不動産の登記をしてから数カ月後と忘れた頃にやって来るため、注意が必要です。
賃貸需要のないエリアに建築
賃貸需要が少ないエリアにアパートを建ててしまうという失敗例、これもよく耳にします。
あらかじめ賃貸需要を確認
あらかじめ賃貸需要を確認することができれば、このような失敗をおかすことはありません。では、どうしたら賃貸需要を把握することができるのか。次の2つの方法が考えられます。
現地を訪問する
実際に現地を訪問して、物件候補地の立地や周辺環境を確認することは、賃貸需要を把握する上でとても大切なことです。また、現地を訪れてみて、どのような人が多く住んでいるのかを把握できれば、ボリューム層に合わせたアパートの設計も可能です。そうすれば、長期間に渡って高稼働率を維持できる可能性も高くなります。
周辺の賃貸物件の入居率も確認してみましょう。入居者がいるかどうかは、カーテン設置の有無や電気メーターを見れば確認できます。空き家が多く活気がない町だと感じたら、その地域への投資は諦めた方がよいでしょう。また、駅前に不動産会社が1軒もないエリアも、おすすめできません。
人口構成や人口推移を確認する
人口構成を見て、若年層が多ければ、将来的に人口を維持できる可能性が高いと言えます。よって、将来的にも安定した賃貸需要が見込めることになります。また、人口が増加し続けているのか、反対に減少が続いているのか、人口が伸び悩み減少に転じようとしているのかなど、今現在の状態を把握したいのであれば、人口推移を確認するという手段もあります。
これらの情報は、各自治体のホームページなどで閲覧することができます。
また、最寄り駅の乗降客数の推移からも、人口推移を推測することができます。乗降客数が増加傾向にあれば、人口も増加傾向と言えるでしょう。
業者選びに失敗し工期も建築費も想定外
予定どおりに工事が進まなかったり工事費用が予算をオーバーしてしまったり… こうしたトラブルは、どのように回避したらよいのでしょう。
建築業者選びで失敗しないためには
大きな業者にお願いすれば安心!そう思っている人も多いでしょうが、デメリットも存在します。そこで、大手の建設会社に工事を依頼した場合のメリットとデメリットをご紹介しましょう。
メリット
万が一、瑕疵があった場合のことを考えると、確実に補償を受けられるであろう大手に依頼すれば安心できます。中小の会社では、瑕疵の内容によっては対応不可能な場合もあり、補償の面では不安が残ってしまいます。また大手に依頼した場合、中小の会社に比べて倒産のリスクが低いというのも安心材料です。
デメリット
建築費は、利幅を大きく取る大手の方が高額になる傾向があります。また、大手建設会社が受注した実際の工事をさらに下請け業者が請け負うため、下請けに工事を発注する際の外注費が発生し、その分も建築費に上乗せされてしまいます。一方、自社が工事に当たることが多い中小の工務店に依頼すれば、建築費を低く抑えられる可能性は高いでしょう。
新築アパートのメリットとデメリット、全体の流れなどは下記記事を参考にしてください。
もりお@不動産投資の森編集部
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