こんにちは。仙台で小さなアパートを経営しているhayasakaです。
前回記事「賃貸物件の立ち退き料の相場と交渉方法について」で、「立ち退き交渉」の難しさと、揉めた場合の経済的ダメージの大きさを説明しましたが、実はこれを回避する有効な手段が存在します。
2000年に施行された「定期借家契約」です。
これは、あらかじめ入居期間を決めて契約を結ぶもので、定めた期間に達した時点で契約が完了する(更新しない)という契約スタイル。
この契約を結んでおけば、厄介な立ち退き交渉に巻き込まれる心配はなくなります。
もちろん、入居者と大家さんが合意すれば再び契約を結んで住み続けてもらうこともできるし、再契約の時点で家賃を改定することもできます。
大家さんにとって、とてもメリットが多い制度ですが、注意点もあります。
今回は、大家さんにとっての定期借家契約のメリットや注意点などについて学んで行きましょう。
目次
定期借家契約の基礎知識
定期借家契約と普通借家契約の違い
賃貸契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。
前者は、期間を定めずに賃貸契約を結ぶもので、入居者の権利が手厚く守られています。
これは、戦後の住宅不足の時代に作られた「借地借家法」に基づくもので、たとえ家賃の滞納など、入居者に落ち度があったとしても、大家さんが一方的に契約を打ち切ることはできません。
しかし、住宅不足が解消されるにつれ弱者の保護という当初の意義は薄れ、むしろ借地借家法を逆手にとって、家賃を滞納する者や法外な立ち退き料を要求する者さえ生み出してしまいました。
そこで、あまりにも大家さん側に不利な制度が見直され「定期借家契約」という新たな方法が、2000年に追加されたのです。
普通借家契約と定期借家契約の違いは次の通り。
普通建物賃貸借契約 | 定期建物賃貸借契約 | |
1. 契約方法 | 書面でも口頭でも可 | 1.「更新がなく、期間の満了により終了する」旨を契約書案とは別に、予め書面を交付して説明しなければならない 2.公正証書等による契約の書面が必要 |
2. 更新の有無 | 有 更新には合意による更新と法定更新がある | 無 ただし、合意により、再契約をすることはできる |
3. 契約期間の上限 | 1.2000年3月1日より前の契約は20年 2.2000年3月1日以降の契約は無制限 |
無制限 |
4. 1年未満の契約 | 「期間の定めのない契約」とみなされる | 有効 |
5. 賃料の増減 | 第32条の規定による。ただし、一定の期間、賃料を増額しない旨の特約がある場合には、その定めにしたがう | 特約がある場合、第32条(賃料増減額請求権)の規定は適用されない |
6. 借主の中途解約 | 中途解約特約がある場合には、その定めにしたがう | 1.床面積200㎡未満の居住用建物については、借家人が、転勤、療養、親族の介護等のやむを得ない事情により、建物を生活の本拠として使用することが困難となった場合には、借家人の方から中途解約の申入れをすることが可能(申入れ後1か月の経過により賃貸借契約が終了) 2.1以外の場合は途中解約に関する定めがあればその定めにしたがう |
一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会、2014『賃貸不動産管理の知識と実務:賃貸不動産経営管理士公式テキスト』大成出版社より
入居者に対して手厚すぎた普通借家契約の規定を、大家さん側にも配慮したよりニュートラルな規定に軌道修正したような内容となっているのがわかります。
定期借家契約のメリットと注意点
定期借家契約のメリット
改めて定期借家契約のメリットをまとめてみましょう。
不良入居者との契約を解消できる
家賃の滞納や、ごみ出しなどのルールを守らない、夜中に騒ぐといった近隣トラブルなど、不良入居者は期間満了をもって契約を終了できます。
契約時点では不良入居者かどうかを判断することは困難であり、入居してから不良入居者だと気づいても普通借家契約を結んでいればどうにもなりません。
このような事態を回避するためには、定期借家契約が非常に有効です。
もちろん、面倒な立ち退き交渉も立ち退き料も発生しません。
また、優良な入居者とだけ再契約すれば良いため、アパート全体の風紀や環境が保たれるというメリットも期待できます。
家賃の改定もスムーズ
普通借家契約では、家賃の値上げをしようとしても、入居者と揉めるという事態に陥りがち。
しかし、定期借家契約なら、契約満了時に「再契約に関する賃料等の条件」という形で家賃を引き上げることも可能です。
もしも入居者が改定予定の家賃に納得しなければ契約を更新せず、次の入居者募集に移ることができます。
もっとも、人口減少・家余り時代に突き進むこれからは、家賃値上げは難しくなると思われます。
しかし、近くにショッピングセンターができるなど住環境の思わぬ改善によって家賃相場が上がる可能性もあるので、その恩恵を大家さんが得るためにも、定期借家契約にしておくのが賢明でしょう。
契約期間は自由
定期借家契約の契約期間は自由に設定できます。
極端な話、1週間や1カ月という契約も可能だし、逆に5年、10年という長期間の契約でも問題ありません。
たとえば、まだ就職が決まっていないような若者や外国人には1カ月の契約で様子を見てから、就職後に1年契約を結ぶという方法もあり得ます。
また、5年後に建て替えを計画している場合は、5年で契約を結ぶことで、立ち退き交渉の心配はなく、うまくすれば取り壊しぎりぎりまで家賃収入を得ることも可能になります。
定期借家契約の注意点
一方、注意点もあります。
重要事項説明書とは別の書面による契約
更新がなく、期間満了により契約が終了する旨を明記した書面で契約しなければなりません。
公正証書がベターですが、要件を満たせば通常の書面でも構いません。
ただし、宅建業法で定める「重要事項」とは別なので、重要事項説明書とは別の書面で「定期借家契約」であることを明快に示す必要があります。
説明義務
さらに書面の内容を、入居者に対し口頭で説明する義務もあります。
原則としては大家さんご自身が説明すると規定されていますが、実際には仲介業者などが説明するケースが多いようです。
この場合、大家さんの代理人だという事を証明した書面を用意しておくことがポイントです。
これを怠ると、裁判では「説明がなされていないので普通借家契約」と判断される場合があるからです。
あくまでも大家さんもしくは代理人が、書面と口頭で定期借家契約であることをきちんと説明しない限り、すべて普通借家契約と判断されるという事なのです。
契約満了の予告
契約期間の満了が近づいてきたら、満了日の1年~6カ月前までに、賃貸契約が満了することを通知する必要があります。
この通知がない場合、契約が満了しても立ち退きを求めることはできません。
もしも入居者が契約満了日を忘れていた場合、突然明け渡しを求められる事になるので、事前通知は当然の事ですね。
ただし、契約期間が1年未満の場合はこの規定は適用されません。
通知なしでも契約期間満了で契約を終了できます。
それでも入居者は次の物件の契約や引っ越し準備が必要なので、3カ月前ぐらいには通知してあげた方が余計な混乱を回避できるでしょう。
定期借家契約に切り替える方法
普通借家契約を結んでいる場合
入居者にとって、普通借家契約を定期借家契約に切り替える直接的なメリットはありません。
特に、借地借家法によって入居者の権利が守られているという事を知っている入居者にしてみれば、せっかく手厚く保障されている権利を自ら手放すことはないでしょう。
こういう入居者に限って、ルールを守らず風紀を乱すケースが多いので頭の痛いところです。
ただし、このような入居者の場合でも、契約時期によっては定期借地契約への切り替えを求めることが可能です。
実は法律上、“定期借地契約が施行される前(2000年2月末日まで)に契約された普通借家契約は、定期借家契約に契約しなおすことはできない”ことになっています。
いわゆる“法の不遡及”という原則です。
これは視点を変えれば、2000年3月以降の契約であれば定期借家契約への切り替えを求めることは可能という事になります。
殆どの入居者はルールを守らず住環境を悪化させる不良入居者には出て行ってもらいたいと思っているもの。
そのような不良入居者がいつまでも居つくのを阻止し、良質で快適な環境を保つことを目的に定期借家契約に切り替えることを説明すれば、理解してくれる入居者は少なくないはずです。
新規契約の場合
新規契約の場合は、定期借家契約を進めるべきです。
この場合も、ルールを守らないような質の悪い入居者が居つくのを阻止するための契約方法である旨を説明し、より良い環境を守る姿勢を示すことで付加価値アップに役立てるべきです。
まとめ
大家さんにとって、極めて厄介な「立ち退き交渉」を回避する切り札となるのが定期借家契約。
法外な立ち退き料を求められることなく、スムーズに契約を終了できます。
不良入居者に悩んでいる大家さんはもちろん、建て替えや他の土地活用を考えている大家さんにもお勧めの契約形態です。
注意点としては、定期借家契約の内容を明記した書面を重要事項説明書とは別に用意し、大家さん自身もしくは代理人(代理人を証明する書面も用意)が、書面の内容を口頭できちんと説明すること。
また、契約満了の1年~6カ月前までに契約満了の通知を行う必要があります。
既に普通借家契約を結んでいる場合でも、契約時期が2000年3月以降であれば定期借家契約への切り替えを求めることができます。
その場合、あくまでもルールを守らないような質の悪い入居者がずるずると居つくのを阻止するための施策で、その結果より良い住環境を維持して行くという狙いを説明することがポイントです。
大家さんにとってメリットが多い定期借家契約ですが、驚くことに平成30年時点で定期借家契約の割合はわずかに1.5%(※)に過ぎません。
実にいまだに98%は普通借家契約で行われており、まだまだこの制度を知らない大家さんが多いというのが実態です。
これから大家さんを目指す皆さんは、定期借家契約を上手に活用して、退去にまつわる不毛なトラブルを賢く回避していくべきでしょう。
※国土交通省「平成30年度住宅市場動向調査」より
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